記念すべき『EMTG MUSIC RISE Vol.1』
に出演する二組のアーティスト
小谷美紗子とsleepy.abの成山剛の対談が実現!
まさに“EMTG MUSIC RISEジェニック”な2人にお互いのソングライティングとライブ観について語ってもらった。
『胸がきしんで生まれた歌だから、聴いた人の胸もきしんでほしい』
“いい歌”と“いいライブ”をテーマに活動する実力派アーティストをピックアップするイベント「EMTG MUSIC RISE」が、間もなくスタートする。このイベントを立ち上げるにあたって、スタッフはこの3年間、毎年100本以上のライブに足を運んで、たくさんのアーティストとオーディエンスに出会ってチョイスを続けてきた。
記念すべき「EMTG MUSIC RISE Vol.1」に出演するのは、小谷美紗子、sleepy.ab、藍坊主、小林祐介(THE NOVEMBERS)、cinema staffの5アーティスト。イベント開催を前に、小谷美紗子とsleepy.abの成山剛に対談してもらった。
小谷は優れたソングライターであり、ピアノの名手としても知られている。コブクロが最新アルバム『ALL COVERS BEST』で小谷の「そんな風にして終わるもの」の歌詞に感動してカバーして話題になった。
一方、sleepy.abは北海道出身&在住の4人組で、北の大地と大空を彷彿とさせるクリアな言葉とサウンドを持ったバンド。空間や静寂を活かしたアブストラクトな音楽コンセプトは非常にユニークで、大きな注目を集めている。
どちらも、心の深い部分に根ざして歌を作り、それをライブで表現している、まさに“EMTG MUSIC RISEジェニック”なアーティストだ。そんな二人に、お互いのソングライティングとライブ観について語ってもらった。
EMTG: 小谷さんは以前、小さい頃に持っていた“善悪”を基準にして自分は歌を書いていると言ってた。たとえば「泥棒はダメ」とか「戦争は悪い」とかの単純な善悪を、大人の事情に関係なく持ち続けるっていう。
成山: ああ、小谷さんの歌に僕が感じのは、そのあたりかもしれない。自分の小さい頃を見い出す感覚っていうか。
小谷: それは嬉しいですね。普通に生活している状態で見る東京タワーと、歌詞が書きたい状態で見る東京タワーは、全然違う。歌詞として書きたくなるようなことを考えていると、ものを見る目がどうしても子供の頃の感覚になるんですよ。
成山: わかります。僕の場合、子供の頃は、素直っていうより、世の中を色眼鏡的に見てた。その後、大人の考え方をしなきゃいけないと思った時期があって。そのときは、自分の歌に共感してほしい部分と、共感してほしくない部分があった。
EMTG: オレのことを、他人がわかるわけはない、みたいな(笑)。
成山: そうです、そうです(笑)。だから、最初の頃に作った歌は、自分を守ろうとしてヨロイを着ているみたいだった。けど、言葉がないと聴いてもらえない。でも恥ずかしいから、言いたいことをオブラートに包んで出してましたね。その一方で、目立ちたい気持ちもあったりして(笑)。
EMTG: ソングライターとしての“思春期”かな(笑)。
成山: そうかもしれないです(笑)。
EMTG: 小谷さんは、そのあたりは?
小谷: 私の場合、共感してほしいというより、自分が自分の歌に元気づけられてるから、聴いている人が私と同じように元気になってくれたらいいなと思います。聴く人にどう感じてほしいか、こっちがどうこう言えるわけじゃないし。
EMTG: 歌詞がストレート過ぎて、恥ずかしいことはないんですか?
小谷: ありますよ。そういう場合は、英語で歌ったりする。それと、日本語で歌うと暴力的に聴こえる言葉があったりするんですけど、そういうのも英語にしていますね。
EMTG: それにしても、小谷さんの歌はつくづく本当のことをズケズケ言いますね。
小谷: 最初は、みんな、自分と同じで、本音を受け入れてくれる人ばかりだろうと思ってたんです。でも、「自分」っていう歌で、♪自分よりバカな人を見て安心した♪ って歌ったら、「あなたの歌は、赤裸々過ぎて聴けない」って言われたことがあって。あ、そういう人もいるんだと思いましたね。
EMTG: それは強烈だな(笑)。
成山: 僕は「なんとなく」っていう曲で、 ♪好きなものが多いほうが 幸せに決まっている♪ と歌ってるんですけど、聴いた人から「私は違うと思う」って言われたことがあった。それで、「ああ、自分がそう思いたかったんだ」ってわかった。普段はあまり言い切ったりしないんですけど、この歌で言い切ってみて、言い切ることの面白さが分かりましたね。小谷さんは「あなたの歌は聴けない」って言われて、平気なんですか?
小谷: 「ああ、そうですか」、っていうくらいですね。
成山: うわっ、強いな。
EMTG: (笑)。
小谷: 自分の胸がきしんで生まれた歌だから、聴いた人の胸がきしんでほしい。ヒリヒリしてほしいと思います。
成山: 聴いてて胸がぎゅっとなる曲って、作った人自身の琴線に触れるかどうかなんですね。僕の場合は、言い切ることで変わった。本当はこうしたいっていうことを、「メロディ」っていう曲でさらけ出してみたら気持ち良くて、聴く人との共通のスペースを見つけて、ちょっとずつ進んできた。歌詞を書いた後、自分が一歩前にいるような感覚があって、それに引っ張られてこれまで来てるって感じです。
小谷: 「自分」っていう曲は嫌いだけど、他の曲は好きって言ってた人が、何年かして「今は聴けるようになった」って。
EMTG: そういうことって、あるよね。
成山: 僕らの歌詞や音を拒絶する人もいる。もしかしたら、それが何年後かに受け入れられるのかもしれないですね。
EMTG: そうだね。“歌”って、ほんとに面白い。さて、今回、「EMTG MUSIC RISE Vol.1」に出演していただくんですが。
小谷: 初めて私のライブを観る人に、「自分」も「手紙」も聴いてほしいと思ってます。ワンマンよりイベントの方が好きな部分もあって、私を知らない人の前で歌うと「おりゃ-!」みたいに気合が入るんですよ(笑)。
成山: 「おりゃー、ヒリヒリさせてやる!!」って(笑)。確かにイベントは、攻撃的な部分が出やすいです。知ってる人と話すのと、知らない人と話すのの違いと似てますね。
EMTG: 知らない人の前だと、大暴れする?(笑)
成山: いやいや、僕は探ったりすることが多いです(笑)
小谷: 私は探ったりはしないかな。
EMTG: あは。ありがとうございました。みなさん、ぜひ「EMTG MUSIC RISE Vol.1」に“いい歌”を聴きにきてください。
【取材・文:平山雄一】
【小谷美紗子】
1996年、シングル『嘆きの雪』でデビュー。
これまでに9枚のオリジナルアルバム、 16枚のシングルをリリースしている。
魂を揺さぶる唯一無二の歌で、音楽ファンのみならず、多くのミュージシャンからも支持を得ている。
【sleepy.ab】
札幌在住の4ピース・バンド。
接尾語の"ab"が示す通りabstract=抽象的で曖昧な世界 がトラック、リリックに浮遊している。Vo成山らが紡ぐ美しく繊細なメロディGtr山内の変幻自在の空間プレイ、Bass田中とDrs津波の確かな素養に裏付けされた強靭なボトム。シンプルに美しいメロディ、声、内に向かったリリック、空間を飛び交うサウンド・スケープが4人の"absolute" な音世界をすでに確立している。
[member]
成山剛(Vo/G)、山内憲介(G)、田中秀幸(B)、津波秀樹(D)